押しも押されぬ人気声優　南まゆかは、今夏公開予定の新作アニメ映画の音声収録をしていた。

「あのっ……今のどうでした?……えっ、OKですかっ!?　ありがとうございますっ!」

「プロデューサーさん、ディレクターさん、お疲れ様でしたっ!　今日は収録初日だったので、
とっても緊張しました。また明日から頑張りますので、宜しくお願いしますっ!」

スタジオを出ると、見知らぬ男に声を掛けられた。

その男は熱狂的な声優オタクで、まだ肌寒い初春の夜だというのに、
ずっとスタジオの外でまゆかを待っていたらしい。

男はサインと握手を要求し、応じると嬉しそうに帰っていった。

そこへ待ち合わせをしていた親友の美穂がやってくる。

「あっ、美穂っ!　こっちこっち……どうしたの、遅かったじゃない?」

「へえ、電車が遅れたんだ……さっきの人?　ああ、ファンの人だけど……なんか、凄くキモいの」

「こんな夜遅くに、ずっと外で私の収録が終わるのを待ってたんだよ?　それと握手をしたんだけどさ……
凄く手がヌルヌルしてたの……ああ、思い出しただけで鳥肌が立ってきちゃう……」

「まあ、マネージャーさんの言う通り、ファンの応援あっての商売なんだけどね……ほら、キモヲタって言うの?
私、ああいうの苦手なんだ～」

「え……理由?　ほら、ああいう人たちって常識ない人多いでしょう。だから、今までも色々とあったのよ。
ここじゃ話せないぐらい怖い思いもしたよ……だからかな」

「ん～……嫌いっていうより、生理的に受け付けないっていうか……もう、とにかく駄目なの」

このとき――まゆかはこれから起こる悲劇を知る由もなかった……。


第一話　『迫り来る影』

第二話　『脅迫』

第三話　『欲望の渦』


CV　餅よもぎ

イラスト　極月

シナリオ　ぱいそん

収録時間　約40分